「……と。どうした? サラ?」 ここは聖樹キングダム。天使に残された最後の砦。 大聖フェニックスとの定時連絡を終え、レストルームでつかの間の談笑をしていた聖Gフッドとプタゴラトンの二人は、コーヒーを淹れてくれたサラが下がらないのを見て、首をかしげた。 よくよく伺えば、その表情はいたって不機嫌なものである。 「……大人って、ずるい」 「は?」 「何の話だ。 もしや、我々だけがティキ殿と話したから拗ねて――うわ、こら! お盆を投げるんじゃない!」 いたって真面目に反応したつもりのフッドだったが、その対応はサラに余計子ども扱いされていることを意識させるものだった。 ついでに言えば、生まれたばかりの乙女心へも容赦なく土足で踏み込まれたセリフである。 空手になった両手を組み、サラはむくれる。 「そんなんちゃう! いっつもおらは蚊帳の外なんが悔しいだけや」 フェニックス達が源層界から帰ってきた時も。 再会を喜ぶ間もないまま、あっという間にプタゴラトンたちと難しい話になって。 ようやく声をかけてもらえたと思ったら、すぐに旅立つと報告されて。 頭がぐるぐるしてるおらに四人は行っちゃって。サラはうまい事を何も言えなくて。 消えそうな声で、気をつけて、とだけ辛うじて伝えたけれど。話したかったことには全然足りないままで。 四人が旅立ってから、キングダムの大人達の動きもバタバタし始めたのは感じるけど、肝心なことは当然教えてもらえはせず。 こうやってコーヒーを淹れたり、食事の手伝いをするくらいしか、サラには出来なくて。 それがなんだか、ものすごく、寂しい。 「サラ、お前にはゲートを開くという役目があるだろう。 充分に、貢献してくれておるよ」 そんなん、村のもんやったら誰でもできるやん、と言い返そうかと思ったが、そんな事を言えばそれこそ駄々っ子にしか見えないだろう。 結局、プタゴラトンのフォローに、ありがと、と言葉だけ返すと、サラはお盆を持ってレストルームから退室した。 廊下の窓から空を見上げれば、そこにはすでに月が浮かんでいた。 彼らも今頃、同じ空を見ているのだろうか。 「……兄ちゃん。おら、みつ編みめっちゃ上手になったんよ」 サラの独白に応えるように、一筋、星が流れた。 遠い場所にいるあの人達に笑われているような気分になり、少女はむにっと自分の頬をつねって表情を作り直す。 心配なんてしてるのがばれたら、きっと怒られるに違いない。 彼らがいつ帰ってきても良いように、自分は笑顔でいなければ。 「大丈夫やよね……。兄ちゃんたち、強いもん」 半分はそれは自分に言い聞かせるためだったけれど。 言葉にすると、少し気持ちが楽になった。 再び、流れた星にサラは祈った。 世界中の何万という人達がそうしたように、大切な人たちが無事であることを……。 |